北アルプス 涸沢岳(残雪期)2016年5月16日

この記事をシェアする

GWの終わった次の週末、北アルプスの涸沢に行ってきました。

やっぱり北アルプスは憧れの山域。そんなところには雪のある時期に行きたいのです。

とは言っても厳冬期に行けるほどの実力はないし・・・という事で少し登りやすくなる残雪期に挑戦することにしました。

 

GWには事故が多く発生した場所でもあるので、準備はいつもより念入りに。少し緊張感を持っての出発となりました。

 


1日目

東京から各地山岳地帯へのターミナルステーション新宿。新たにできたバスタ新宿から、22:25発 さわやか信州号 上高地行に乗ります。

 

定刻通り朝5時過ぎに上高地バスターミナルに到着。 バスは満員で、その殆どが登山者。
GWを過ぎた普通の土日だけど、雪の3000m峰に登ろうとするもの好きがよく居るものだ・・・

 

登山届、忘れずに。先週燕岳で書いたものと同じフォーマットだった。このエリアでは統一されているのかな。

ベンチで朝食を済ませて、6時前に出発。

テレビで観光客でいっぱいの河童橋を見るけど、さすがに早朝は静かだ。

 

これから目指す穂高連峰がそびえる、河童橋からの景色。この景色ポスターでよく見るけど、とっても趣があっていいよね・・・

 

まずは11km、ハイキングコースを歩きます。今日は余裕の行程なので、のんびり写真を撮りながら。

 

上高地自体は正直ノーマークだったけど、これまた良い場所で、新緑と春のお花が大変綺麗なところです。

50分ほどで明神分岐に到達。

バックには明神岳。バリバリのクライミングルートらしい。

梓川沿いのほぼ平坦な道が続くが、プチ渡渉もあったり

どこか、海外のような景色にも思える。日本「アルプス」なんて言われるのも分かる気がする。

また50分程歩き、徳沢に到着。ロッジとキャンプ場がある。広くて綺麗なキャンプ場でとても過ごしやすそうだった。一回ここでキャンプしてみたいなー

お花畑が続くので、慣れないお花撮影をしてみる。白いニリンソウの花が一面に咲いててとてもきれいなのです。

 

 

横尾に到着。

ここは、槍ヶ岳方面と涸沢方面の分岐点になっている。

ここにかかっている横尾大橋を渡ると涸沢、梓川沿いに直進すると槍ヶ岳に向かう。
今回はこの横尾大橋を渡り、涸沢に向かう。

ここまでは登山道というかハイキングコースという感じ(落石結構あったけど・・・)でしたが、いよいよここから本格的な登山道となります。しっかり装備を整えて入りましょー

程なくして登りが始まる。

屏風岩を横に見ながら歩く。巨大な岩場だ。なんでも、国内最大級の岩壁でクライミングのメッカらしい。
こんなデカい岩場、登るのに何日かかるんだ・・・というか、登れるのか・・・

ロッククライミングには今後も縁がないだろうなー・・・と思いたい

屏風岩を捲いていくと、中岳が見えてくる。その横にはあの大キレットが続いているはずだ。
「あー北アに来たなー」と実感が湧いてくる。

雪の残る区間が出てくる。注意が必要な場面だ。
この下には川が流れていて、トレースがついた部分も下は空洞になっていたりする。○と×の印がついていて、どのようなルートをとればいいか分かるが、ここ数日気温が高くて雪解けも早い。本当に安全かどうか、自分自身で観察して確かめながら歩く必要があると思った。
さもなくば、雪が抜け落ち、下に流れる川で一気に流されることだろう・・・

本谷橋を渡る。
ここに
すこし休憩できそうな場所があるので、川の水で疲れを癒す事にする。

ここの水がとても綺麗で、青い色をしている。なんだか北海道のオンネトーを思い出した。

本谷橋を過ぎたあたりから、残雪エリアになる。上の写真のトラバースの先でみんなアイゼンつけてたので、アイゼンをつける事にした。

 

涸沢カールまでまだまだかかるかと思ったが、割とすぐに涸沢カールが見えてきた。写真中央からすこし左下に人の姿が見えるが、彼らは山小屋のスタッフ。スコップで道を整備してくれている。
残雪期とはいえ道のはっきりしない雪山を我々が迷う事なくスムーズに登ってこれるのも、彼らがこうやって道を整備してくれているからである。大変感謝する。

涸沢ヒュッテも見えてきた・・・が、ここからが長い。歩けど歩けど山は近づかない。

スケールでかすぎて遠近の感覚狂ってくるー

 

登りも地味にキツい。緩んだ雪で体力が奪われる。

振り返ると確かに標高を上げてきている。
下りの人はスイスイと滑るように下っていく。憎いw

長い登りをやっと終えて、涸沢小屋に到着。本日の宿泊地!

自分は今日2番目の到着だったけど、夜には満員になっていた。布団は一人一枚確保できたけど。
普通の土日でこれだったら、GWはどうなってたんだろう・・・GWに行かなくて良かったー

外で一緒に昼飯を食っていて仲良くなったイタリア人。イタリア北部に住んでいるらしく、本場ヨーロッパのアルプスを登る屈強なクライマーらしい。
蝶ヶ岳を登ったあと涸沢にきて、奥穂と涸沢岳を登ったあと降りてきて、これから上高地に下山するところだという。
本物のアルプスを知るクライマーが日本アルプス登ってみてどうだったか聞いてみると

 

「確かにあっちのアルプス山脈と似てる雰囲気あるね。とっても美しくていい山だったよ。ただ標高が低いからその分登るのは楽だったね。アルプスは標高4000m以上あるから息するのがすげー辛いのよ・・・」

 

との事だった。ヨーロッパの山を知る人からしたら日本アルプスとか鼻で笑われるかと思ったけど、彼はとても満足げだったので良かった。

 

 

山小屋で国際交流というレアイベントを消化したのち、明日に備えてピッケルを持って下見&練習に行く事にする。

今回のアタックルート。夏山はザイテングラートにグルっと右から取り付き白出のコルまで上がりますが、積雪期はあずき沢を直登します。てっ辺付近の急勾配が難所か。

 

今日はとりあえずザイテングラートまで登ってみる事にする。

ザイテンまでも傾斜はそこそこあったけど、特に不安な感じはしなかった。このとき昼2時半くらい、時間が遅かったのでかなり雪が緩んでいたけど、明日の朝、すこし遅い時間であれば適度に雪も締まって登りやすくなりそうだった。

 

下りは斜面の歩き方や滑落停止の練習をしつつ小屋まで戻った。

絶景を見ながらごはん。

夜は星がたくさん見えるかと思ったけど、月が明るすぎてあまり見られなかった。
とはいえ、夜の闇に佇む穂高の山はちょっと恐ろしくも美しく、不思議な気分にさせてくれる景色で時間を忘れてしまうようだった。

 

2日目

早朝はモルゲンロートを期待したが、これまた微妙だった。写真は若干ホワイトバランス振って盛ってますw
これも真っ赤になる時期とか条件ってのがあるんでしょうな。

写真を撮っていると、何人かがあずき沢に取り付いている。早朝、雪はまだカッチカチだが早い時間からよくみんな登るなー

自分は雪が少し柔らかくなるのを待って登り始めた。

ザイテングラートまでは昨日の練習通り、スムーズに進んだ。涸沢ヒュッテのテントがどんどん小さくなっていく。

ザイテングラートの横からは徐々に傾斜がきつくなる。写真のおじさんとこの後一緒に上まで登る事になった。

白出のコルまでは、下から見上げる以上に距離がある。登っても登っても上が見えてこない。
「登り続ければいつかは着く!」と自分に言い聞かせて黙黙と登るしかない。

一番勾配のキツい区間に差し掛かる。この写真は水準器見て撮ったから多分ちゃんと勾配再現できてるはず。かなりの勾配に感じるけど、ダガーポジション使うまでではない。
確か北穂沢とかはダガーポジションで登ってる画像を見たから、確かにあずき沢は涸沢からのルートでは勾配が緩くて一番楽なのかもしれない。
恐怖心は少しあったけど、ピッケルもしっかり刺さるしアイゼンもちゃんと利くので安定した登攀ができたと思う。

やっとの思いで白出のコルに到達!ここまで来ればもうあとは楽勝だ!
白出のコルからは奥穂高岳、涸沢岳の両方にアプローチできる。

 

奥穂高岳方面を見る。最初のハシゴのあとの雪壁が危険で難しいポイントだという。まさに2組程のパーティがロープで確保をとりながら下っているところだった。見ているのも怖い。

今の自分には到底無理な領域だ。いつの日か積雪期のこの稜線に取り付く日は来るのだろうか・・・

穂高北尾根。涸沢からこちらにアタックしていくパーティもいたけど、どうなっただろう・・・

さてさて、僕が行くのはそんな過酷な生死の間のような世界とは無縁(?)の涸沢岳です。白出のコルからは涸沢岳へはほぼ夏道なのでアイゼンつけずに登れます。楽勝楽勝!

頂上までは岩の登りが続く。技術的に難しいところはない。

上に来ると奥穂の稜線の全景が見えてくる。最初の雪壁が終わればあとはそんなに大変なところは無いのかな?

赤い屋根の小屋は穂高岳山荘。

20分くらい登ってついに・・・

街に出たら犯罪者だなこれ

涸沢岳(3,110m)登頂!

夢に見た雪の穂高の頂・・・最高峰の奥穂ではないけど実現できた。ここ最近で一番の達成感だ。

涸沢岳の隣にある涸沢槍、その先に槍ヶ岳。

 

涸沢槍の上に立つ人がとても小さく見える事から、スケールの大きさが伝わると思う。
あーいつみてもカッコいい。次に北アルプスに来るときは絶対にあのてっぺんに立つんだ。

 

乗鞍方面、笠ヶ岳方面は共に雲がかかって山が見えず。残念・・・

穂高岳山荘まで戻ってきました。ゆっくり達成感を味わいたいところですが、帰りのバスの時間もあるのでそろそろ降りなければなりません。

そして、この下降こそが今山行で一番の難関・・・

歩きに集中するため、カメラをザックにしまっていたので一枚も写真を撮っていません。

始めのうちは思った以上に下りやすく、慎重でも調子よく下ってました。後ろの人に抜かされても焦らない。確実に一歩一歩確かめながら。

しかし、途中で前を歩いていた男性が滑落・・・標高差にして約300mくらい滑っていきました。

実は今年のGWでも、このあずき沢で死亡事故が起きてます。その前の年も。

http://www.tozanarekore.net/article/437452893.html
http://tozan-today.com/news/000109.php

下からの写真ではただの雪の斜面で、勾配が急だったとしても滑り台みたいに落ちていくだけで死ぬ事はないんじゃないの?って思われそうですが、実際登ってみると危険性が分かります。

 

下から撮った写真では小さすぎて見えないですが、ザイテングラートのあたりからところどころ岩が露出した部分があります。あと、落石もポツポツと転がっています。そんなところに急斜面で滑って猛スピードでぶつかろうもんなら大変な事になります。ヘルメットは必需品。

 

僕の目の前で滑落した男性は岩の方へすべっていったので、ヤバい!と思ったのですが、なんとか岩の前で止まり、その後立ち上がったのでホッとしました。
しかし、本当に冷や汗かいた。目の前で人が滑っていくのを見ていることしかできず、あとに残るのは自分もああなるかもしれないという恐怖心。

 

ちょうど一番勾配の急なところを降りるところだったので、そこからは一段とゆっくり慎重に下っていきました。
多少勾配が緩くなってきてからは心に余裕が出てきて、踵から大股でガシガシ下ってあっという間に涸沢ヒュッテまで下りました。

お世話になりました、涸沢小屋、涸沢カール!
名残惜しくも涸沢カールを去ります。

涸沢からの下りはアイゼン無しで滑るように下っていく。あんなに時間がかかった坂も、一瞬で下っていける雪山の下りの速さよ。

帰りに、もう一度屏風岩を見上げる。なんか、このルートでここが一番印象的なところだったかもなー。

完全な夏道に戻る。涸沢とは別世界。

 

 

横尾に到着。実はこのとき時間がギリギリで、バスまであと2時間半しかない!
受付の時間も考えると、コースタイム3時間10分の道のりをあと2時間15分で歩かなければならな事になる。バスをあきらめて上高地で一泊する選択も考えたが、ここはなんとかバスに乗れるよう歩く選択をした。

写真とってる場合じゃなかったけどいい雰囲気だったので・・・・

横尾からの道は、さっきまでいた雪山の危険な世界とはまったく正反対ののどかな世界だった。カップルや家族連れが楽しくハイキングをしている。脇にはお猿が呑気に木の実を食べている。

でも自分の頭の中はもうバスの時間でいっぱいだった。観光客を早歩きで抜かしまくる。
あずき沢の登りと同じくらい辛かった・・・

バスの出発15分前に上高地にバスターミナルに戻った。河童橋には大量の観光客、ツアー団体。
あー戻ってきたなぁ などと息をつく間もなくバスの受付に滑り込んだ。

なんとかチケットを確保し、バスの座席に座ったところでやっと下山を実感した。

 

山の滑落死のニュースが出ると、「なんでそんな事までして山に行くのか」とよく言われるものだけど、自分の力で計画し、準備し、恐怖心を自分の体力と技術で乗り越えた先に見える絶景はそう簡単に語れるものじゃない程素晴らしい。そんな事を今回改めて実感した。

 

残雪の穂高、3000m峰をクリアした事は大きな自信になったけど、決して己惚れないようにしたい。今回は前日練習の時間をとって状況を知ったうえで、同じ条件のときに登ったから出来ただけの話で、他の条件でもいつでも登れるとは思わない。雪面がもっと固かったら今回のようには行かなかっただろうし、いつも気象が安定しているとも限らない。

 

穂高岳山荘のスタッフの今年のGWの遭難事故についてのブログ記事が最近話題になっていたけれど、やっぱり装備をちゃんと整える事と、事前のリサーチや準備、練習をする事は非常に重要だと今回の山行で感じた。
夏山の登山ですらまだまだ初心者なのだという事を肝に銘じて、これからも少しづつチャレンジを続けたい。

この記事をシェアする

コメントを投稿する

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。

関連記事